
朝日新聞の以下の記事で、
東芝問題において、新日本監査法人に課徴金と業務改善命令の行政処分が行われる方向という内容が報じられています。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12110006.html
新日本監査法人の行政処分の方向性は、資本市場に与える影響、公認会計士業界に与える影響がとても大きいので、少し内容を解説してみたいと思います。
1.今回の事案と中央青山の処分
2006年にカネボウの粉飾決算に伴う処分として、当時の中央青山監査法人に金融庁から業務停止命令が下されたことがあります。
この業務停止命令によって、中央青山監査法人は事実上の解散に追い込まれました。
では、なぜ監査法人の業務停止命令は、事実上の解散命令になってしまうのでしょうか。
監査法人は、上場企業を中心とした大企業の財務情報の監査を行っています。そのため監査法人は業務停止命令を受けてしまうと、クライアント企業の監査ができないという状況が発生します。
上場企業などは、公認会計士の監査が義務図けられていますが、クライアントとしては新たな監査法人と早急に監査契約を締結し、決算開示を行う必要が出ます。
そのため、業務停止命令を受けることは、ほぼすべてのクライアントを失うことを意味しますので、事実上の解体勧告となってしまうのです。
中央青山監査法人の場合には、クライアントと担当会計士がセットで、他の大手監査法人に移籍したりする事案が多く発生しました。また、中央青山監査法人の一部の人たちが独立し、現在のPwcあらた監査法人を設立しました。このあらた監査法人の設立はBIG4の一つであるPwcの意向であったとも言われています。
業務停止命令もあくまで監査法人に対して行われているので、クライアントごと移籍したり、新たな監査法人を設立して業務を移管することは可能なのです。
2.課徴金について
監査法人に対する課徴金は、2008年から導入されましたが、今まで適用されたことはありませんでした。今回は初の課徴金が課せられることになりそうです。
金額は20億円とも言われていますが、監査法人にとっては大きな金額と言えるでしょう。
3.業務改善命令と業務停止処分の違い
次に、業務改善命令と業務停止処分の違いについて説明します。オリンパス問題の時には、業務改善命令が下されています。これは、監査法人に問題があったため、今後の改善を勧告するとともに改善案をしっかりと作成し、報告・実行することを求められたことになります。
対して、業務停止命令となると、レベルが変わります。監査業務を行えなくなってしまうと、上述したように事実上の解体勧告になってしまうのです。
4.新日本監査法人に対する行政処分はどうなるのか
新聞報道や他の情報を勘案しても、年内に課徴金と行政処分が行われる可能性が高いと思います。
その際に、業務改善命令で済むのか、業務停止処分まで行くのかが最大の注目点と言えます。
カネボウ事件では、公認会計士が不正を知りながら見逃していたので担当会計士は逮捕されています。今回の東芝事件では、公認会計士は不正を知らなかったという状況ですので、この場合には、担当会計士の逮捕ということにはならない事案です。
また、新日本監査法人は、日本の上場企業の3割近くをクライアントとして有する大法人です。仮に新日本監査法人が全面的な業務停止処分を受けた場合には、監査を受けられない企業が続出する可能性も否定できないため、資本市場に大混乱が起きます。従って、業務改善命令または、新規クライアントの獲得停止などの部分的な業務停止処分になる可能性が高いと思います。
5.大監査法人が抱える課題
近年、監査法人は合併を繰り返し、規模を拡大させてきました。その結果、共同経営者であるパートナーと言われる人が数百名規模存在している法人もあります。
その場合に、1,000社以上もあるクライアントの一つで、数名のパートナーが関わっているだけの案件で今回のような問題が生じるたびに業務停止命令(事実上の解散命令)のリスクにさらされていると言えます。
今回、新日本監査法人に全面的な業務停止命令の可能性は低いと思いますが、今後も業界としては検討しないといけない問題と言えます。